早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース top line
これは2005年度から2009年度までのMAJESTyプログラムのアーカイブです
English
space
   

早稲田大学集中公開講座 開催予告
MAJESTy's BOOT CAMP in 関西
~ 科学技術ジャーナリズムを考える2日間 ~

<シラバス>

「スパコンがもたらす未来-事業仕分けを乗り越えて」
平尾公彦・理化学研究所特任顧問/計算科学研究機構設立準備室長
   
   理化学研究所で次世代スパコン・プロジェクトを担当し、昨年11月以来、行政刷新会議の事業仕分けに翻弄されている。プロジェクトが「限りなく見送りに近い縮減」の判定を受けてしまったからだ。仕分け人たちには、プロジェクトの中身や世界の状況認識もほとんどない。低水準な議論で重大な結論を出してもいいのか、大いに疑問が残る。資源のないわが国の生きる道は科学技術創造立国しかない。乱暴な結論を糾弾する炎は燎原之火の如く燃え拡がり、政治判断の結果、「凍結」ではなく見直して継続するとの方針が出された。私たちはこのプロジェクトをきちんとやり遂げ、わが国の発展のみならず、人類の存続に貢献したいと考えている。ペタコンが拓く世界と可能性について解説する。
   
「科学技術論とは何か」
綾部広則・早稲田大学理工学術院准教授
   
   本講義では、科学論の基本的考え方を紹介する。現代の科学論の直接の起源は、科学が一つの社会制度として確立する20世紀初頭に本格的に遡ることができる。爾来、「科学的」とは何かについて、メタなレベルからの研究が積み重ねられてきた。「科学的」なものとそうでないものをどう区別するかについては、まず、両者を区別する合理的な基準を求める試みがなされてきた。しかしその後、社会学や人類学の手法が導入され、科学知識が実際に生み出されている場への調査研究が進んだこともあって、いわゆる科学的専門家の知識そのものをより相対的に捉えようとする契機が生まれている。こうした科学論の基本的な考え方の紹介を通じて、科学ジャーナリズムが科学とどう向き合うかに関する一つの視点が提供できればと考えている。
   
「科学ジャーナリズムの科学」
田中幹人・早稲田大学政治経済学術院講師
   
   今も続く経済危機、そしてグローバル化の中で、科学とジャーナリズムはそれぞれに変動の時代の真っ只中にある。その荒波の中で、科学の社会における位置づけを問い続ける使命を持つ「科学ジャーナリズム」も大きく揺らいでいる。
 本講においては、現代における各国の科学ジャーナリズムの状況を概観すると共に、日本における科学ジャーナリズムの現在を、最新の研究成果を交えて俯瞰する。これを通じ、科学ジャーナリズムの現代における意義、そして科学ジャーナリズムのこれからに向けた取り組みについて考える。
   
実習:「ジャーナリズムの英語を読むこと、書くこと」
石塚雅彦・早稲田大学政治経済学術院講師
   
   日本語でも英語でも報道記事の原則は、わかりやすく、簡潔で、そして正確であることだ。しかしこのことが、英語が外国語である日本人にとって、英語の記事をかえってとりつきにくくしている面もある。言葉の違いだけが原因だとも限らない。センテンス、パラグラフ、そして記事全体の組み立て方が、日本語の記事とだいぶ違うからでもある。実際に英語で記事を書くとなると、英文記事特有の言葉づかいと構造が頭に入っていなければならない。ジャーナリズム英語ライティングの授業はこんなことから話が始まる。ここでは、英字新聞に出ている記事を使って、それがどう書かれているかを分析し、自分で書くときのてがかりとして解説したい。グローバル化、オンライン化を深める世界で、英語はメディアでもますます共通言語として威力を増している。英語はもはや「外国語」ではなくなってきているとさえいえる。日本のジャーナリズムスクールでの英語の位置づけも急速に変わっていくかもしれない。そのようなこともあわせて説明する。
   
「映画を通じてマス・メディアの特徴を学ぶ」
谷川建司・早稲田大学政治経済学術院教授
   
   科学技術の世界で研究活動に従事している専門家と、マス・メディアの世界でジャーナリストとして活動している者は、ともに真実を追究することに情熱を燃やし、自分が導き出した結果に対してどこかに落とし穴がないかどうか常に検証を怠ってはならないという点では共通しているが、その“作法”は全くと言ってよいほど異なる。科学者とジャーナリストとの間に起こりがちなミス・コミュニケーションを回避していくためには、お互いが相手のことをよく知ることが第一歩となろう。本講義では、マス・メディア側の特質というものがよくわかる素材として映画を用いることで、科学に携わる者がマス・メディアと接する際に必要となる“マス・メディアの理解”を促進させる一助としたい。
   
「企画セッション:『地震を伝える』ということ」
山本健一・人と防災未来センター副センター長
石崎勝伸・神戸新聞社記者
束田進也・東京大学地震研究所アウトリーチ室准教授
   
   1995年に兵庫県南部地震が起きてから今年(2010)は15年である。神戸新聞は、兵庫県に根付いた新聞としてこの間、地震報道、および復興報道を行ってきた。しかし、町の復興が進むにつれて地震の記憶は薄れていく。この記憶の風化を阻止し、次世代にジャーナリストとしてどのような提言を行うことができるのだろうか。一方、阪神・淡路大震災の経験と教訓の発信を使命とする「人と防災未来センター」は、この15年間どのように発信してきたのだろうか。その取り組みやそれに伴う困難を語る。東京大学地震研究所は国内でも屈指の地震・火山に関する研究所であり、地震火山情報を提供する立場にある。技術革新とともに変わる地震情報の出し方について、その手法や取り組みについて語る。それぞれ講演を行った後、受講生を交えて災害情報報道について語り合う。
   
「若者たちが次世代に震災を語り継ぐ」
山本健一・人と防災未来センター副センター長
   人と防災未来センターは、研究、研修、展示など、さまざまな事業を総合的に行う世界に類をみない災害メモリアル施設である。その特性をいかし、たえず「大震災の経験と教訓」というかたちで国内外に情報を発信し続けてきた。大震災から15年経ったいまだからこそ、若者たちによって生み出される新たな語りをマス・メディアと連携して広く伝えることで、時の経過を「風化」ではなく「熟成」ととらえたいと考えている。これらの取組みのねらいや課題について説明する。
   
「15年間の震災報道―現場からの報告」
石崎勝伸・神戸新聞社記者
   阪神・淡路大震災は、地震発生から15年がたった。復興はしばしば、数字や経済で語られる。ひっくり返った阪神高速神戸線が1年8カ月後に復旧し、4万戸以上の災害復興住宅が供給された。2004年には神戸市の推計人口が震災前を上回った。「信じられない速さ」と世界が賞賛する。しかし、15年たって初めて、自分の経験を語れる遺族がいる。今も心身に傷を抱える人たちが語りたいと思ったとき、とりわけ地元メディアは「そうやったね」と理解できる相手にならなくてはならない。被災者一人ひとりの声を発信することが将来の災害への備えだけでなく、この国が抱えるさまざまな問題に対しても解決の糸口になると思っている。深刻化する被災地復興への課題、加速する記憶の風化に対する取り組みなども報告し、災害における報道の役割を探りたい。
   
 
「地震情報の発信について、気象庁を例に」
束田進也・東京大学地震研究所アウトリーチ室准教授
   地震のソフトウエア的な被害軽減対策としては、地震の知識の啓発と地震に関する情報発表とがあるだろう。中でも地震に関する情報は、緊急地震速報の提供開始に見られるように、揺れた結果としての情報から揺れる予測としての情報へと近年その姿を変えつつある。被害軽減を自分のこととして考え、予測情報を活かすためには、地震の知識の啓発と情報発表は両輪である必要がある。講演では、地震情報の現在と背景について述べる。