「科学技術ジャーナリストはどういう場面で必要とされるのか」という会場からの質問に対し、西村教授は税金を科学者へ分配する国家と税金を支払う国民の双方にとって必要だと主張した。国は、予算をつけた科学技術のプロジェクトが残した実績を、ジャーナリストにより国民へ伝えてもらいたい思惑がある。また納税者である国民のために、政府が正しい予算の使い方をしているか検証し、批判する仕事も求められる。西村教授は後者の役割がより重要になると指摘した。 これに対してJurdant教授とHolloway助教授から、欧米では一般人が身近な公衆衛生の改善や調査を、行政やメディアにロビー活動を通して働きかけるという新しい動きが始まっていると述べた。 また「科学技術ジャーナリストに必要な素養は何か」との問いに対してはさまざまな見解が示され、議論は熱を帯びた。 Holloway教授は科学者と同様の素養が求められるとした。強い好奇心と探究心、自説を検証するための自己批判を心がけること、問題を多方面から捉えること、文章力などである。周副教授はコンピューターやデジタルメディアへ精通していることが重要になるとした。 西村教授は「科学技術」ジャーナリストに必要な素養というように、ジャーナリストの中で「科学技術ジャーナリスト」を特別に考える姿勢に疑問を呈した。そのうえで、科学技術ジャーナリストにも他分野のジャーナリストと同様に取材先と対等に渡り合えるだけの知識や人格が求められるとした。 この主張に対して谷川教授は、学生は一般的に科学技術に苦手意識を抱いており、これが科学技術ジャーナリズムを特別なものと捉える要因となっているのではとの考えを示した。そして、大学院の修士課程では科学技術への苦手意識や距離感をなくす教育を行うことが大切になるだろうと話した。
(早稲田大学J-School修士1年 宮前 観)
写真:藤吉 とーきち 隆雄