李双龍

Jオピニオン


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李 双龍 (Li Shuanglong)

復旦大学新聞学院准教授

 


インタビュー [2008/02/21]

早稲田ジャーナリズム大学院への期待

 早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース(Jスクール)は、中国の復旦大学新聞学院(ジャーナリズム学部・大学院)とダブルディグリー・プログラムを始めます。日本のメディアの実情にも詳しい復旦大学新聞学院の李双龍・准教授にJスクールへの期待などについてインタビューしました(聞き手=瀬川至朗・早稲田大学教授)。

瀬川
 日本への留学経験がおありですね。


 1991年から約10年間、東京大学新聞研究所(現・情報学環)に在籍し、「コミュニケーションメディアと農村の変容」というテーマで博士号を取得しました。滞在中は日本記者クラブでアルバイトをしていたので、多くの記者の人とも交流しました。

瀬川
 李さんの眼には、日本のジャーナリズムはどう映りますか。


 報道のシステムが中国とは違います。中国では報道しないようなことを日本のメディアが報道しているので、留学当初は興味津々でした。ただ時間が経つにつれ、「果たしてこれでいいのか」と徐々に感じるようになったのも事実です。日本のマスコミには不足している点や課題があると考えるようになりました。
 その課題とは何でしょうか。私は、ニュースの報道がどういう視点、どういう立場で行われているのか、果たして取材対象者のことを考慮しているのか、それとも一方的なのかという点を指摘したいと思います。
 例えば中国・餃子事件を例に挙げると、テレビ放映の時間は限られているにもかかわらず、日本ではどのテレビ番組もこの問題を一斉に取り上げていました。視聴者への影響は大きく、中国製のすべての商品に問題が起きているという印象でした。中国の現実をみると、そこまで問題が起きているわけではなく、ギャップはかなり大きいのです。物事を冷静に見る視点が必要だと考えます。

瀬川
 早稲田大学のジャーナリズムコースは、日本初の本格的なジャーナリズム大学院です。どんな役割を期待しますか。


 日本にはこれまで、専門的なジャーナリスト養成をする大学院はなかったと思います。ほとんどは、メディア企業に入社後、実際に記者の仕事をしながら学んでいくという養成方法でした。いい面もありますが、不足している面もあります。記者はそれぞれの社の理念に沿った取材や行動をするようになり、そうでない人は評価されません。優秀な記者も出てくるでしょうが、弊害もあります。
 早稲田のジャーナリズムコースは、こうした既存のシステムに対するある種のイノベーションであり、改革の方法だと思います。既存のものに対し、グローバルな視点、国際的な視点、アカデミックな視点を取り入れていくことになります。早稲田には昔からジャーナリスト養成の伝統があります。メディアや社会の状況、さらには国際情勢をみるに、この時期のジャーナリズム大学院設置は、時宜にかなった、ひじょうに素晴らしい試みだと思います。
 とくに学部卒の学生の養成だけでなく、メディアで働く記者の再教育の場として、とても良いやり方になるでしょう。現役の記者がいったん現場を離れて、大学の場で、社の違いを超えて交流できます。教授・講師たちのグローバルな視点も重要です。こういう視点もあるということを記者が学ぶことになりますから。ジャーナリズムが本来の姿に戻れるようになると思います。復旦大学では数年前から現役記者の再教育を始めており、手応えを感じています。

瀬川
 早稲田大学と復旦大学の連携も期待できますね。


 ジャーナリストをめざす中国の学生が、1年間、日本で学ぶことは将来のジャーナリスト活動において貴重な体験になるし、また、日本の学生が、中国で学ぶこともジャーナリズムにとって重要です。アカデミックな視点で、お互いを客観的にみることが、現場の相互理解につながります。中国は日本の良いところを学び、日本はよりアジア的、世界的な視点を持つことができます。

瀬川
 「アジアに強い日本人ジャーナリスト」と「日本に強いアジアのジャーナリスト」の育成を早稲田大学は構想しています。お互い、よりよいジャーナリズムのために頑張りましょう。(了)