ジャーナリズムコースの博士課程とはどんなところか
政治経済学術院 非常勤講師、(株)タルタルビジョン代表取締役
樋口 喜昭
 
 私は、2008年春に社会人学生としてMAJESTyの修士課程に入学し、その後J-Schoolの博士課程へ進学、昨年(2019年)の論文提出、審査を経て、この春、ようやく博士号の取得となりました。テーマは「日本における放送のローカリティ」で、1925年に開始した日本の放送をローカリティの側面から通時的に分析しました。
 
 振り返れば、修士課程から数えて12年間、ひとつのテーマにこだわって研究してきたことになります。この期間、学費と生活費を賄うため、本業の映像制作と非常勤講師の仕事を掛け持ちしながら研究を続けてきましたので、100%研究中心の生活とはいかず、提出期限ギリギリとなってしまいましたが、ようやく区切りを付けることができました。この間、はじめの5年間を昨年惜しくも逝去された小林宏一先生、後の7年間を土屋礼子先生に主査としてご指導いただいたほか、MAJESTy、J-School、他大学の多くの先生にご指導いただきました。
 
 ここで、博士課程で学んでみたいと思っておられる同窓生がいるかはわかりませんが、ジャーナリズムコース(J-School)の博士課程とはどんなものか、その実際の中身についてお伝えしたいと思います。博士課程では、主に自分の設定したテーマを指導教官と話し合いながら研究していきます。他に修士課程にあるような必修授業はありませんが、毎年クリアしなければならないハードルが存在します。
 
 1年目は必読文献のリストが配付され、その習熟度を測る「基礎修得認定試験」に合格する必要があります。博士課程になってまで試験か、と最初は面食らいましたが、この勉強で改めてジャーナリズムの基礎を整理することができたと思います。
 
 2年目は、「論文構想試験」が実施され、博士論文執筆へ向けて作成した構想が妥当であるかがチェックされます。
 
 その後、形式上は3年目に博論の提出前発表会を開催した上で博論提出、口頭試問を経て審査となるわけですが、自分はここからが大変でした。最初の段階で自分が設定したテーマの広がりを十分に見極められず、風呂敷を広げすぎていたということもありますが、作業量が膨大になってあっという間に時間だけが過ぎていきました。よく例えられることですが、大海原を小舟でたどり着く先が分からないまま彷徨っている感じです。指導教官にアドバイスをいただきながら島のようなところにたどり着き、また流されるといったことを繰り返しました。
 
 自分が進んでいる方向が見え出してきた頃、ようやく論文が提出できる段階となっていました。その後、提出前発表会を開催、多くの方からご意見をいただいて修正を加え博論を提出、さらに口頭試問となり、審査の結果、博士号取得見込の報告をいただいた、という次第です(現在の博士課程の詳細は大学院のホームページをご覧ください)。
 
 研究を行って感じたことですが、早稲田大学は、マスメディア関係の資料が大変に充実しています。放送局や新聞社の貴重な一次資料が寄贈されてひっそりと置いてあることもあります。特にメディア業界に就職された皆さんも、是非、本学の図書館を活用し、少し引いた目線で現場で起きていることを見直してみるとよいかと思います。
 
 私は研究者としてはようやくスタート地点でこれからが正念場です。興味のある同窓生の方、是非一緒に研究しませんか。
 
同窓会報第11号記事
2020.3.20配信