第4回キックオフ・シンポジウム

 早稲田大学Jスクール創設記念・キックオフシンポ第4弾が、外務省事務官(起訴休職中)で作家の佐藤優氏らを招いて1月26日午後2時半~5時、西早稲田キャンパス1号館401教室で開催された。メインテーマは「インテリジェンス」。4月に創設される大学院政治学研究科ジャーナリズムコース(Jスクール)と早稲田大学現代政治経済研究所、「20世紀メディア研究所」が共催した。

 「自壊する帝国」で第38回大宅ノンフィクションを受賞した佐藤氏は、07年後半にも「私のマルクス」「国家論」「インテリジェンス人間論」などの話題作を精力的に発表し、言論界で大いに注目されている。教室にはインテリジェンス研究者やジャーナリズム関係者だけでなく学生が多数詰めかけ、立ち見がでる盛況さだった。

 講演タイトルは「インテリジェンス原論の構想――ジャーナリズムコース開設にあたって」。20世紀メディア研究所代表でこの日のシンポジウムの司会を務めた山本武利・早稲田大学政治経済学術院教授が提案した。

 佐藤氏は、「インテリジェンス原論の構想はそもそも不可能」と述べる一方、「その不可能の可能性に挑むのは面白い」と語り、今後、インテリジェンス原論を組み立てていく上でのポイントを6点に分けて示した。6点とは(1)原論とは何か(2)方法論について(3)内閣情報調査室職員の問題をどう見るか(4)メディアとインテリジェンス(5)公共圏について(6)今考えていること――。

 詳細は割愛させていただくが、佐藤氏の話は、新カント主義、シュライエルマッハの解釈学、ロシアへの情報漏洩容疑で摘発されたばかりの内閣情報調査室職員、中世の総合智などなど、時代と分野を自在にかけめぐって展開され、その知的な面白さに参加者は大満足の様子だった。インテリジェンスとジャーナリズムの関係では、佐藤氏は、インテリジェンスを「国家が生き残るための実践的な総合智」であると規定。国家はインテリジェンス機能を強化していかねばならないが、それがおかしくならないように規制するのがジャーナリズムと市民の役割であり、とても重要であると指摘した。

 佐藤氏は2008年度、早稲田大学ジャーナリズムコースの「ジャーナリズムの使命」(前期、オムニバス)と「ジャーナリズムとインテリジェンス」(後期、オムニバス)という二つの授業で講義を担当する。インテリジェンス原論の構築に向けた刺激的な講義が期待される。

 なおシンポジウムでは、佐藤氏のほか、白水祥太郎氏(早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程)が「マレー作戦に向けての日本のインテリジェンス――軍産学からのアプローチ」という話をした。

 ジャーナリズムコースについては、シンポジウムの冒頭、佐藤正志・大学院政治学研究科長が「ジャーナリズムの修士号を付与する日本初のJスクール。3年間実施してきた科学技術ジャーナリスト養成プログラムの経験を生かし、政治、経済、国際、社会、文化の各分野の専門知をそなえたジャーナリストを育てていく」と挨拶した。また、飯島昇蔵・政治経済学術院長は早稲田Jスクールの試みを紹介する1月4日付のJapan Times の記事に触れながら「外国特派員は日本のジャーナリズムが権威に弱いと指摘している。民主的市民が求める真のジャーナリズムを育ててほしい」と語った。